第二十一章 真田昌幸の野望
冬
「さて、徳川を滅ぼし、関東一帯は我が領地となった」
「おめでとうござりまする!」
「いよいよ父上も覇者におなりあそばしましたな」
「うむ。これだけの領地を所有しておれば決戦も出来るの」
「しかし今の所決戦を仕掛けられる大大名は天下人の豊臣家くらいでござりまする。八つ以上の城がなければ決戦を仕掛けられませぬ」
「その豊臣家は、徳川の脅威が消えてからというもの、若狭田辺城主の細川藤孝殿を滅ぼし、尾張清洲城の福島正則をも滅ぼしましてござりまする」
「おそらく三成殿の入れ知恵じゃな。彼の御仁に逆らう者は滅ぼせというお達しがあったのじゃろうて」
「いずれ豊臣家と矛を構えなければなりませぬな」
「天下を狙うとあらば、秀頼公には身を引いて頂かなければならぬの」
「目下の所、京の都は秀頼公のものにござりまする」
「決戦を仕掛けて、もし我が方が勝てば、大半の城を我が領地に取り込むことが出来、豊臣家を従属させることも可能かと」
「秀頼公がそう易々と京の都を明け渡すかどうか・・・」
「まあそれは先の話じゃ。今は周りの敵について対策を講じなければならぬ」
「北関東には結城殿と蒲生殿、それに那須殿、上杉景勝殿の城が三つ、北越後に堀殿の城が二つ。安房には里見殿、遠江に堀江殿。越中には前田利長殿」
「岐阜の岩附城は豊臣家の飛び地にござりまする。ちと厄介ですな」
「同盟が手切れとなれば、秀頼公は織田秀信殿も滅ぼすつもりじゃよ」
「三法師様にもお手をおかけあそばしまするか」
「おそらくの」
「個々の大名に戦を仕掛けるのも面倒ですな。ここは脅迫をかけて軍門に下されてみては」
「しかし我が領地には外交に長けた武将が足りぬ。おおそうじゃ、浪人どもはどうしておる」
「徳川の浪人どもが、領地内に大勢屯しておりまする」
「ではさっそく登用いたせ」
「ハハッ!」
*
「旧徳川家臣の武将が大勢仕官に応じてくれましたぞ」
「おおそうか!」
「徳川四天王の誉れ高い本多忠勝殿、榊原康政殿、井伊直政殿。それに大久保長安殿に伊奈忠次殿、板倉勝重殿、土井利勝殿」
「徳川家の内政で手腕を振るっていた者達じゃな?!」
「左様で」
「よし、さっそくそのもの達に頼んで、軍門に下らせよう」