第二〇章 蹴鞠の殿様
「上様」
「何じゃ!」
「上様にお目通り願いたいと申す者がおりまするが、いかが致しましょう」
「目通り許す!」
「ハハッ!」
「面(おもて)を上げよ。名は何と申す」
「今川氏真にござりまする」
「なんと!東海道一の弓取りと呼ばれた今川義元殿の御嫡男ではないか」
「昌幸殿の武勇を聞き及び、是非とも家臣団に加えて頂きたく罷(まか)りこしてござりまする」
「今川殿は和歌に秀でておると聞き申したが、京の都の雅な文化にも精通しておられるのか?」
「蹴鞠も得意にござりまする」
「是非我が家臣となって働いて貰いたい」
「有り難き幸せ」
*
「父上、良いのでござりまするか?」
「何がじゃ」
「氏真殿は蹴鞠は得意にござりまするが、和歌と蹴鞠に明け暮れている内に、信玄公と家康に両側から攻められ呆気なくお家を潰した経緯がござりまする。戦を知らぬような御仁にござりますれば、なぜ登用したのでござりまするか」
「京の文化に精通しておるということは、朝廷にも何かと顔が利くという事じゃ。氏真殿はお家断絶後京に上られ、和歌、蹴鞠などを嗜み、京の公家衆との人脈が深いと聞く。天下に号令するためには宮中に金を献上して友好の意を示さねばならぬからの」
「なるほど」
「氏真殿には朝廷との折衝役を言いつけるつもりじゃ。冬が開ければ金の収入も入ってくるしの」