第十五章 徳川掃討戦
季節ははやくも梅雨になった。昌幸は配下の諸将に陣ぶれを出し、九千の兵を率いて関東平野に出陣、対する徳川秀忠は六千八百の兵を率い、昌幸の兵を待ちかまえた。
「さてと、徳川残党の退治をするといたすか」
「敵の武将は強者揃いですな。我が部隊に兵力の優位はござりますが、相手方は徳川四天王の誉れ高い本多忠勝、榊原康政、井伊直政、それに先の戦いで我が部隊を苦しめ抜いた渡辺守綱と屈強の武者揃い」
「腕が鳴るわい」
「なんとしても家臣に取り込みたいものですな」
「家康の首を奪ったことで、徳川内部では新たな結束が生まれておりまする。さすればなかなか仕官には応じぬのではござらぬか」
「さて、こればかりはやってみなければ分からぬて。まずは幸村隊、忠政隊に砦を占拠して貰おう」
「小さな砦ですからそれほど手こずりませんでしょう」
「うむ。長政隊、勝永隊は幸村隊と忠政隊の後詰めを」
「かしこまってござる」
「儂と弘就は敵本陣の全面に陣を張る。遊撃部隊は屋代勝永」
「ははっ!」
憂鬱な梅雨の空に法螺貝が鳴り響き、戦が始まった。真田幸村率いる騎馬隊千六百が敵方の砦に突進、それを見て取った本多忠勝隊九百が本陣より出陣し、砦の救援に向かった。石川家政隊百も東の砦より攻撃を受けている砦に向かって移動。守りの手薄になった砦を屋代勝永の遊撃部隊千と、昌幸本隊の側で待機していた弘就隊七百が狙いにかかった。
伝令「申し上げます!」
「おう!」
伝令「只今、真田幸村殿が渡辺守綱の部隊と交戦中!五分五分にござりまする!」
「分かった!」
伝令「申し上げまする!」
「なんじゃ!」
「浅野長政殿の部隊が、真田幸村殿の背後に回ろうとした本多忠勝隊を脇腹から攻め立てておりまする!」
「分かった!儂もすぐに行くと伝えよ」
「はは!」
「申し上げまするー!」
「申せ!」
「矢沢頼康殿が砦近くで井伊直政の部隊と交戦中!押されておりまする!」
井伊と言えば井伊の赤備えで有名なあの井伊か、昌幸は胸の内で独りごちた。
「すぐに救援に向かわすと伝えよ!」
「はっ!」
報告を受けている昌幸の東側に、騎馬の一群が砂埃を上げて駈けていくのが見えた。