第十四章 名器蜻蛉槍
春
小姓「殿、我が城下に商人が訪れておりまする」
昌幸「おお、何か売るものはないかのう」
勘定奉行「兵糧は売るわけには参りませぬぞ。蔵には売る余裕はございませぬ故」
「そうじゃ、家康の所有していた家宝があったわ。ほれ、蜻蛉切とかいう一級品の槍じゃ。何でもこの槍の切っ先にとまった蜻蛉がまっぷたつに裂けたところから蜻蛉槍という愛称がついたそうじゃ」
「しかし良いのでござりまするか?そのような高価な武具をお売りになっても」
「実はのう、ほとほと困り果てておるのじゃ。徳川の残党を成敗する足がかりとして、かの結城家に同盟の使者を送ったのじゃが、この蜻蛉槍をよこせと言うてきかん。結城家は名家といえども、今は城を一つ所有するのみの小大名、そんな小大名にくれてやるには惜しゅうてのう」
「左様で」
「他の大名にもなぜかこの儂が蜻蛉切を所有していることが知れ渡っておっての、同盟を求むるたびに寄越せ寄越せと五月蠅いのじゃ。いっその事うっぱらって金に換えた方が、真田家のためにもなろう」
「家臣にお譲りしては如何でございましょう」
「家臣のう」昌幸は右の拳に頬を乗せると思案顔になった。「この槍を扱えるほどの家臣がおればの話じゃがのう。息子の幸村は騎馬を駆るのに夢中じゃし、本多忠勝ほどの武勇者がおれば別じゃがのう。今の所おらんわい」
商人「いつも御贔屓にさせて頂いております」
「おお来たか来たか。上がられよ」
「それでは失礼して」
「この槍なんじゃがのう」
「ほうほう、これは絶品・・・。それでは金二万で如何でございましょう」
「金二万か、悪くはないの。よし、決めた!売ることにいたそう」
「毎度ありがとうございます。ではまた御贔屓のほど・・・」
「これで軍資金が一挙に増えたわい。城には鉄砲もあることじゃし、雨でも鉄砲を撃てる技術も身につけておる。誰か鉄砲隊を率いるのに都合の良い武将がおればよいのじゃが・・・」