第八章 同盟失敗
小姓「殿、お喜びくださいませ。甲府城の屋代勝永殿が、浪人石川康成殿の登用に成功なさいました!」
「おお、ようやっと仕官に応じてくれたか」
「甲斐の国では兵を二千五百養えます故、じきに関東への睨みも利きましょう」
小姓「殿!松本城の屋代頼康殿が、浅野長政殿の説得に成功!」
「おお、こちらもようやく応じてくれたか!」
「過去の遺恨は水に流すとのことにござりまする」
「あっぱれじゃ。これで内政にも力が入れられるな」
「父上、ここらで国替えを致しては如何にござりましょう。長政殿は中老の身分故、甲斐の国の領主に据えおきなさいませ。存分にお働きいただけましょう。屋代殿は松本城へ、頼康様は越後春日山城の城主に据え、北国に睨みを利かせては如何かと存じまする」
「我らはあの前田家と国境を接するようになったな」
「使者を送りまするか?」
「ううむ、同盟に応じてくれるかのう。利家公が亡くなられてからというもの、息子の利長殿と利政殿は家康に寄り添おうとしておる。しかし今前田と事を構えては、徳川征伐の目論見も狂うてくる」
「なるべく刺激せぬ方がよろしいでしょうな」
「うむ」
「では、京極高知殿を同盟の使者に立てましょう」
その間にも昌幸・幸村親子は坂戸城を包囲、城主の日根野弘就を捕らえて家来に組み込み、堀家を滅ぼした。
やがて戦の後始末も終わった頃に使者が帰ってきた。
「駄目でござった。前田利長殿は一向に応じてくださらぬ」
「なんと?」
「こちらが用意した金五百も受け取ってくださらぬ。やはり徳川とよしみを通じているご様子」
「ううむ・・・」
「面目ござらぬ」
幸村「致し方あるまい」
「ところが思わぬ収穫がござった」
「何じゃ、申してみよ」
「はっ!宿場にて休息を取っていたところ、旧葦名家の家臣、猪苗代盛胤(いなわしろもりたね)殿とお会いしました。我が主に仕えてみぬかと申し出たところ、快く承諾してくださいましてござりまする」
「でかした!」
幸村「家臣団が増えてまいりましたな」
「おう、これで十二人の武将が集まった。しかし徳川には五十以上もの家臣がおる。当家の五倍じゃ。おおそうじゃ、幸村。そなたのこれまでの働き、比類なきもの。本日をもってそちを中老に致す。これからも父のために励んでくれよ」
「ははっ!有り難き幸せ。満身創痍の働き、ご覧にいれて見せまする」