第六章 越後への足掛かり
「父上、念願の甲斐を手に入れましたぞ」
「おう、この地は彼の信玄公が手塩にかけて開発した領地。儂は信玄公に成り代わって、お屋形様が果たせなかった天下統一を成し遂げてみせようぞ」
「しかし武田家旧臣の大方は、武田家滅亡の折、徳川家康の家臣団に組み込まれてしまいましたからな」
「奴は信玄公贔屓じゃからのう。三方原の戦いで大敗を喫したものの、甲州軍学にすっかり惚れ込んで、もっぱら武田の旧臣から信玄公の戦の仕方を聞き出しておるそうじゃ」昌幸は嘆息した。「武田の旧臣を何とかして我が家臣団に取り込みたいものじゃ」
「それはそうと父上、大名家を滅ぼすと、すべての武将達を捕らえることが出来まするな」
「うむ、次はどこを狙うか。家臣団を増やすためにも、出来るだけ武将の数が多く、城の数が少ないところがよいのう」
「御意。さすれば堀尾良治の守る駿府城、山内一豊の浜松城は如何かと」
「うむ、しかし南に深入りしすぎては、防衛戦が伸びきってしまうわ。徳川に攻められたら一溜まりもなくなるの。泥仕合になってしまうわい」
「では北を狙いまするか」
「上杉の旧領地で、今は堀家が守っている春日山城か」
「その前に北信濃の飯山城を落とさなければなりませぬ」
「よし、決まった!次は飯山城攻略じゃ!具足をもてい!出陣じゃあ!」
総大将の森忠政は籠城。
本陣とは正反対の位置に門があり、そこに敵兵約三千が集結していたので、砦の裏をついた昌幸隊が柵を壊し、一気に本丸に乗り込んだ。ちょうどその時、蒲生家からの援軍がやってきたが、正面の門を攻撃中の真田幸村隊が馬の頭を返して迎撃に向かった。ところが槍を突き合わす前に守りの手薄な本丸が呆気なく落ちた。
「赤子の手を捻るような城攻めでしたな」
「此度は城が改修中じゃったのも幸いした」
「蒲生家から援軍が到着しましたが、本陣を突かれる前に城が落とせて胸を撫で下ろしました」
「ところで儂は群雄になったぞ」
「おめでとうござりまする」
「良馬が使えるようになった。幸村、そちの騎馬隊にはこれからますます活躍して貰わねばならぬ、頼んだぞ」
「はっ!」
「居城を定めたいのだが、金が二万必要じゃ。来年辺り、各領地から掻き集めるしかないの」
「京へはいつ攻め上りまする?」
「そうじゃな、今はまだ京に御旗の錦を立てるほどには兵も家臣も足りぬ。それに上田城を本拠地にする故、武家屋敷をたくさん建てて兵力を増強せねばならぬな。今のままではこれ以上兵は増えぬ故」
「上田城に家臣を集中させますか」
「いずれはな。今は他の城の城主に据えるので精一杯じゃ」
甲斐の甲府城は武田の旧臣屋代勝永、北信濃の飯山城は千石久秀に任せていた。
「政に長けた京極高知に武家屋敷を一つ造らせた。隣にも武家屋敷があるゆえ、城下の発展も早まるであろう。三ヶ月後には出来上がるそうじゃ。投資を続けていけばいずれ兵も増えるじゃろうて」