第五章 甲斐奪取
梅雨
「喜べ、幸村。儂は今日から大大名じゃ」
「おめでとうござりまする」
「城が二つに増えたからのう。これからは戦で長槍が使えるぞ」
「これで徳川とも互角に戦えますな」
「いや、まだじゃ。まだ武将の数が足りぬ。それに朝廷工作もしておかなければならぬ。いざというときに敵対大名の策略で朝敵にされては溜まらんからの」
「京に使者を送りまするか」
「今はまだその余裕がない。教養の高い武将を獲得してからでよい」
「はっ!」
「それより甲斐攻めの手筈は整ったか」
「整いましてござりまする」
「よし、早速浅野長政を攻め滅ぼそう」
「お待ちくださりませ。浅野の後ろには徳川家康が控えておりまする」
「なるほど、そうじゃの」
「ご出陣は慎重になさいませ。徳川の家臣は屈強な三河武士ばかりにござれば、速やかに城を奪取しなければ、勝利を得るのは難しいでしょう。援軍が到着する前になんとしても城を落とさねば」
「幸村」
「は?」
昌幸はにやりと笑った。
「戦はの、やってみなければわからぬ」
*
昌幸は幸村とともに甲府城を攻めた。
浅野長政は七百の兵を率いて籠城するも、攻め方の猛攻を受けついに落城。城から脱出しようとしたところを捕らえられた。
「好きにせよ」
縄目の恥辱を受けて座る長政を昌幸は検分した。
「敵とはいえよく戦い申した。殺すには惜しい人物。どうじゃ、儂に仕えてみぬか」
「断る!おぬしの家来になるつもりなど毛頭ないわ!」
ふんっ、昌幸は苛立ちを押さえつつ鼻で威嚇した。
「ならばどこへなりと好きな所に落ちのびるが良い」
「よろしいのでござりまするか父上」
「良いのじゃ。いずれ時が経てば仕官に応じてくれよう」
この戦の勝利で、昌幸は甲斐を奪取、京極高知、屋代勝永、千石久秀を家臣団に加えることに成功した。長政の子、幸長は仕官の誘いを断り、父と共に落ち延びていった。