第四章 戦いの刻
「おお、浅野幸長自ら城から打って出おったわ」
「父上、お気をつけくだされ。弓隊の攻撃に長く晒されると、こちらの士気に関わりまする」
「そちと儂とが組めば、幸長など風前の灯火じゃ。それ、かかれええええーーー!!!」
「一番槍は真田幸村ーーー!」
「おおーーー!」
戦場にどよめきが起こる。槍と槍がかち合わされ、幸長隊が押されてゆく。
「見よ!幸長めが城に逃げ帰ってゆくぞ!」
「油断はなりませぬぞ父上。敵が櫓の中に入ればそこで休息を取り、兵力を回復させ、再び攻めかかって参りまする」
「よし!櫓を乗っ取るぞ。門を壊せ!」
「門を打ち破ったぞー」
「突入じゃ!」
「櫓を獲れえー!!!」
「おお、あそこに見えるは、総大将の浅野長政じゃ。皆の者、櫓は後回しじゃ。狙うは長政の首ただひとつ!それ!かかれーえい!!」
「オオォーーー!!!」
昌幸・幸村親子に囲まれた長政隊はみるみるうちに士気を減じていき、潰走状態になった。
「長政隊壊滅!」
「総大将は!」
「逃げおおせてござりまする」
「殿!本丸を占拠いたしました」
「それぃ、勝ち鬨をあげい!」
「エイ、エイ、オーーーー!!」
「松本城を手に入れましたな」
「うむ、それにこちらの損害は全くなしじゃ」
「兵が減じた場合は、本陣に入って休ませれば、兵が目減りすることもなく、次の合戦に突入できまする」
「甲斐の甲府城に逃げ帰った長政を攻めるか?」
「我らは既に出陣いたしましたので、出陣出来るのは矢沢殿のみにござります。ここは大事を取って次の季節に持ち越されては如何かと存じまする」
「武将は一人も生け捕りにすることができなんだ」
「父上、矢沢殿を松本城の城主に据えては如何かと。お城に城主がいなければせっかく奪った城を浪人に乗っ取られかねませぬ。それに戦が終わったばかり故、松本城は城兵が少のうござる。我ら武将の数と兵士が少ない内は矢沢殿に出陣の機会は回りませぬので、ぜひ矢沢殿を松本城主にお据えなされませ。いずれ兵が回復した暁には矢沢殿にも出陣の機会が巡ってきましょう」
「よし、分かった!頼康、長年の功を鑑み、そちを松本城主にしてつかわす。精一杯励むがよい」
「ははーっ!ありがたき幸せ!」
頼康は平伏した。