第八章 石川数正来訪
「お屋形様、徳川家の使者が訪れておりまするが如何致しましょう」
「苦しゅうない、通せ」
「ははっ」
「徳川家の使者、石川数正と申しまする」
「噂はかねがね聞いておる。して用件は」
「捕虜になっております当家の榊原康政をお返し願いたく参上つかまつりましてござりまする」
「榊原康政か。そういえば小田原攻めの時に捕虜にしたが、さて、いかがしたものよのう信茂」
「徳川家には立派な槍があると聞き申したが」
「はあ、確かにござりまする。五等級品の槍かと」
「お屋形様、その槍と引き替えに康政殿をお返ししては如何かと」
「そうじゃのう。どうせこのまま引き留め置いても、康政殿は徳川殿への忠誠心が強い上、家臣にはなってくれぬし、逃げ出すかも知れぬしな。承知した、数正殿。連れて行かれよ」
「ありがとうござりまする」
数日後……。
「殿、また徳川殿の使者が来訪して捕虜を帰して欲しいと申しておりまするが如何致しましょう」
「何?またか???こないだの合戦で一体何名捕らえたのじゃ」
「一〇名は捕らえておりまする」
「一〇名か。さて、どうする」
「金と引き替えに開放すれば、徳川の財政を圧迫させることも出来まするし、見返り無しに開放すれば名声が一〇上がりまする。名声が上がれば民忠も上がりやすくなり、兵の補充も多くできまするが……」
「金か、かといって今金は有り余るほどある。金よりも米が欲しいくらいじゃ」
「では無償で開放なされますか」
「そうするとするか。こちらから自主的に捕虜を解放しても名声は1しか上がらぬし、儂の人徳を世に広めるのには思わぬ好機じゃしの」