第二二章 信玄の野望
「やれやれ。勘助がおれば儂自ら骨を折ることもないのだがのう」
「如何致しましょうや」
「各軍団長に一任しておる。高坂弾正には越後を守らせておったの」
「ハハッ!」
「既に越後の西には敵はおらぬ故、秋田方面に軍勢を集めよと申し渡せ」
「承知つかまつりまして御座りまする」
「して、山本勘助の跡を継いだのは弟の典厩であったか」
「典厩殿は目下の所、山本殿が築いた支城に兵三万を駐留させておりまする」
「なれば安心じゃの。充分持ちこたえるじゃろうて。しかしこれは絶好の好機じゃな」
「はっ!すでに我が軍は各方面に四〇万以上の兵を展開しておりますれば、たとい敵が包囲網を築いて一斉に打って出たとしても、各個撃破することは十分可能に御座りまする」
「というわけか」
「敵の出鼻を挫けば、今度はこちらから攻めやすうなりまする」
「小田原城主の真田幸隆はいかがしておる」
「目下の所、兵を安房攻めに向けて再編成してござりまする」
「こちらも安心というわけか。しかし将軍様はなかなか技術を教えてはくれぬのう」
「はい。まことに」
「弓術くらい教えてくれればいいものを。しかも耳覆いの技術をくれとねだってきておる」
「耳覆いの開発には二百日以上を費やしてござりまする」
「たかだか弓術の初歩的な技術に、耳覆いをくれてやらねばらなぬとは」信玄は思わず失笑した。「将軍家は、邁進しておるようじゃの」
政景は信玄の意を汲んだ。
「今は姫君を嫁がせておりまする」
「なればこそじゃ」
「ははっ」
「なればこそ、いずれ将軍家を滅ぼさねばならぬ」